なぎさ No.608 『特集 小網代の森 生き物の楽園 ―奇跡の森ーへ』より

生き物の楽園―奇跡の森―へ

都心から電車に揺られること、1時間半。
神奈川県・三浦半島の相模湾を訪れると、
「奇跡」と称される森が広がる。その名は「小網代の森」。
ここは、生き物との一期一会の出会いの場―。

生物を育む森の中をふだん着で歩こう

緑がうっそうと生い茂り、昼は木漏れ日が
草花を照らして、夜はホタルが舞う。
浜辺では、カニのダンスがはじまって……。
にぎやかな自然の様子を小一時間で味わえる小網代の森。
日常をデトックスする気分で、散策しよう。

関東有数のビーチが点在し、新鮮な海の幸を求めて、週末は観光客でにぎわう三浦半島。東京・品川駅から1時間半ほど京急線に乗ると、三浦半島の南に位置する終点・三崎口駅へたどり着く。のどかな風景にひと呼吸おいたら、さらに南へと向かうバスに乗りこむ。車窓から遠方の富士山や一面に広がるキャベツ畑を眺めているうちに、森の入り口に到着。

春から夏にかけては、ここ小網代の森がもっとも美しい表情を見せる季節だ。3月から4月は、アシやオギ、ガマの緑が爽やかで、ヤマザクラやハマダイコンの花が色を添える。雑木林が生い茂る5月にかけては、浜辺で無数のチゴガニが踊りを見せ、アカテガニがあちらこちらを闊歩。カニたちが我先にと、木登りをする姿が愛らしい。色鮮やかなアゲハチョウや絶滅危惧種のトンボも辺りをふわふわと飛び回る。

5月の終わりから6月の初旬、一晩で1000匹ものホタルが舞う光景は、夢心地。7月の満月と新月の夜には、アカテガニが海へおり、産卵を行う。一斉に3万匹ほどの子どもを海に放つのだ。

小網代の森は「ひとまとまりの自然」が残る稀有な場所。ひとつの「流域」がまるごと守られている。「流域」とは川の付近だけではなく、山のてっぺんから河口までの広域を指す言葉。ほとんどの場合は、その途中で人々の暮らしが営まれ、ダムや工場が建ち、住宅地が広がっている。ところが小網代の森には、それがまったくないのだ。道路に分断されることもなく、すべてが緑に覆われているのは、関東地方ではここだけ。

流域がまるごと残されているからこそ、さまざまな地形を見ることができる。尾根、谷、湿地、干潟、そして海。そこに多種多様な生物がすむ。小網代の森と干潟周辺では、これまでに2500種類以上もの生物が発見されてきた。カニだけでも60種類以上生息する。70ヘクタールの森と3ヘクタールの干潟というコンパクトな土地に、大自然が凝縮され、生き物の楽園を築いている。

散策路は歩きやすく整備され、片道30分ほどで見て回ることが可能。気軽に足を運んで、大自然のミニチュア版が繰り広げるドラマをのぞいてみて。

かけがえのない自然は、人の手で守る。
〝奇跡〟をつくる、知恵と努力

自然の法則に従って水と光をこまやかに管理することで、
その力を最大限に生かす。
この森の〝奇跡〟の営みは、人の知恵とたゆまぬ努力のたまものである。

「手つかずの自然」と聞くと、素敵だと思う人が多いのではないだろうか。しかし、30年以上にわたり小網代の森の保全管理活動を担当している、NPO法人小網代野外活動調整会議の代表理事・岸由二さんは、「手つかず」では豊かな自然環境を維持できないと語る。

「『自然はほったらかしが一番』という考えは誤解です。この森を放置していたら、生物多様性は失われていました」(岸さん)

1960年代、小網代周辺は水田地帯だったという。それが放棄され、80年代には水田跡地がアシやガマの茂る大湿原に変わった。ところが90年代に入ると、川の流れが変わって一帯が乾き、乾燥に強いササが一面を覆うようになったのだ。

「乾燥したササヤブは野火の危険もあります。そこでササを刈り、杭を利用して川の流路を変えました。川は高い場所から低いほうへ流れるもの。流路を高くすれば、水が広範囲を流れる。そうして湿原は回復し、絶えた植物も再び茂り始めました」(岸さん)

日々の保全作業でとりわけ力を注ぐのは、「水系コントロール」だ。乾燥や大雨で、川の流れや環境は移り変わる。それに応じ、杭を打ったり水路を掘ったりして川の流路を変えるのだ。小網代の森の自然は、山から河口へ水が流れることで育まれている。だからこそ、「水の力」を保つための手入れが大切なのだ。

「大きくなりすぎた木々の伐採も必要です。切らないと森は暗くなり、他の植物が光合成できませんから」(岸さん)

生き物たちでにぎわう小網代の森。
五感のアンテナを使って見つけよう!

― 森内散策の注意事項 ―

・トンビのいたずらがあるので、歩きながらの飲食はさけましょう。
・夏〜秋はススメバチが出るので、明るい色の長袖、帽子を着用しましょう。
・森内や干潟での行動は、調整会議スタッフのアドバイスにしたがってください。

❶ウッドデッキ

入り口から出口まで続く延長1,300mの散策路。
植物の生育を守るためでもあり、
カジュアルに自然散策ができる工夫でもある。

❷まんなか湿地

森のほぼ中央に位置する湿地帯。支流との合流地点なので、
ホタルの群生や植生の変化が楽しめる。崖にアカテガニの巣を発見できるかも。

❸干潟

南北の岬に包まれた3haの干潟。
流域からの豊富な栄養により「絶滅危惧種」が150種近くもすみ分けをして生息している。

❹小網代湾

相模湾に抜けるリアス式の海岸。港の先にはリゾートマンションやヨットハーバーがあり、天気が良ければ富士山も見える。ヨーロッパのような風情。

散策の前後にオススメの定食屋!
小網代の森 ひげ爺の栖(すみか)

「引橋入口」手前にある古民家レストラン。三浦で揚がった魚を漁師さんから直接買い付けた鮮魚の定食や三浦大根のサラダなど、地産地消のメニューが豊富にそろう。天気が良い日は、中庭のテーブル席でのんびり日なたぼっこしよう。

【DATA】
TEL/046-845-6260
住所/三浦市三崎町小網代2252-1
営業時間/11:00~16:00(LO15:30)
定休日/水曜日(祝日の場合は翌日)ほか
料金/三崎鮪漬丼1,650円ほか

※掲載内容はなぎさNo.608発行当時(2018年4月)のものとなります。
※社会情勢等により、営業時間や内容が異なる場合がございます。
※価格は全て税込です。
※「なぎさ」は京急電鉄が発行している広報誌です。バックナンバーは京急電鉄のHPからご覧いただけます。

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